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守口ブログ「SPなう。」

2011年12月05日
【守口ブログ 第1回】「100人に1人がタダ」の魅力

大手量販店のビックカメラでは、「100人に1人タダ(無料)キャンペーン」という販促策を頻繁に実施しています。 これは、キャンペーン期間中にビックカメラで買物をした際にレシートに「当たり」が印字されていたら、その場で支払い金額と同額が返金されるというものです(景品表示法の規制によって返金の上限が10万円に設定されています)。

ビッグカメラの店舗のPOSシステムに乱数表のプログラムが組み込まれており、1%の確率で「当たり」が印字される仕組みになっています。この仕組みを利用して、買物客の1%が当選することになります。また、特別なセールの際には、当選率が2%にアップしたキャンペーンが実施されます。 例えば、競合企業のヨドバシカメラが秋葉原に超大型店舗をオープンした2005年9月には、ビックカメラ有楽町店で「50人に1人タダ(無料)キャンペーン」が実施されました。

同様の仕組みのキャンペーンは、全日空でも頻繁に実施されています。例えば、09年9月から10年3月までの7ヶ月に渡って、「ANA沖縄キャッシュバックキャンペーン」という販促策が全日空によって展開されました。 これは、北海道から沖縄の往復の旅行商品を対象として、抽選で100人に1人に旅行代金のキャッシュバックを行うというものです(上記と同様の理由で、10万円がキャッシュバックの上限)。 これらの効果に関する具体的な数値は明らかにされていませんが、両社ともに繰り返し同種のキャンペーンを実施していることからも、一定の効果があるものと推察されます。また、最近では、上記2社以外の企業による同種のキャンペーンも散見されます。

キャンペーンを実施する企業側からみると、100人に1人をタダにすることのコストは、全員に1%引きの価格を提供するコストと等しくなります。実際には、無料となる購入金額が10万円までと制限されている分だけ異なりますが、ほぼ等しいと考えることができるでしょう。 利用者側の立場で両者を比べても、支払い金額の期待値が等しいため、100人に1人がタダと全員が1%引きとの間には、客観的にみた金銭的メリットに差はないと考えられます。

ところが、ほとんどの消費者は、1%の値引きよりも100人に1人がタダというキャンペーンを魅力的に感じるはずです。筆者も、家電製品などのある程度高額な商品の購入する際に、それぞれのキャンペーンを実施している2つのお店があったら、まよわず100人に1人がタダの方を選びます。

それでは、1%の値引きにはほとんどインパクトがないと考えられるにも係わらず、100人に1人がタダという方法は、なぜ消費者にとって魅力的だと認識されるのでしょうか。このような現象がなぜ生じるのかについては、2つの理由が考えられます。その1つは、「小さな確率の過大評価」であり、もう1つは「ゼロ円効果」です。

主観的確率

人が感じる確率は、客観的な確率とは異なります。トバスキーとカーネマンという2人の心理学者が提唱したプロスペクト理論によると、人が感じる主観的な確率は図のような形状をしているとされています。図の横軸は客観的な確率、縦軸は主観的な確率を表しています。もし、両者が等しければ客観的確率と主観的確率との関係は45度線で表すことができますが、実際には図の曲線のような関係となっています。

図をみると、横軸上のおよそ0.3から0に至るまでの領域において、主観確率が客観確率を上回っています。このことは、この領域において確率が過大評価されていることを表しています。

さらに、0.3を超えて1に至る領域では主観確率が客観確率を下回っており、確率の過小評価が発生しています。 この関数をもとに考えると、1%の客観確率はだいたい6~7%くらいの主観確率に対応します。言い変えると、100人に1人という客観的な当選比率は、主観的には「15人に1人」が当たるくらいに感じられることになります。

ビッグカメラや全日空のキャンペーンが魅力的に感じられる理由の一つは、このような「小さな確率の過大評価」に求めることができるわけです。

100人に1人がタダというキャンペーンが魅力的に見えるもう一つの理由として、「0円効果」があります。 シャンパニエールらは、価格がゼロ(つまりタダ)の魅力度が非常に高いことをいくつかの実験によって明らかにし、この効果を0円効果(zero-price effect)と名付けています。

彼らはいくつかの実験を行っているのですが、そのうちの1つの実験では、「1人1つだけ」という掲示をしたうえで、ハーシーズとリンツという2つのチョコレートをMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生センターで販売しました。 2つのチョコレートの価格の組み合わせは3通りあり、ハーシーズとリンツがそれぞれ1セントと15セント(1&15)、0セントと14セント(0&14)、そして0セントと10セント(0&10)となっています。

表:2つのチョコレートの価格と選択率

価格 選択率
ハーシーズ リンツ ハーシーズ リンツ
1セント 15セント 27% 73%
0セント 14セント 69% 31%
0セント 10セント 64% 36%

はじめの2つの組み合わせを比較すると、両者の価格差はともに14セントです。 したがって、ハーシーズとリンツの価値の差が、金額にして14セント以上あると感じる学生は後者を選び、それ以下だと思う人は前者を選ぶと考えられます。もちろん、両方とも欲しくない人はどちらも買わないでしょう。 このように考えると、2つのチョコレートの購買比率は、「1&15」と「0&14」の間で大きく変化することはないはずです。 さらに、最後の組み合わせである「0&10」の条件では、他の2つの組み合わせに比べてリンツの比率が高まると考えらます。 実験の結果、「1&15」の条件では、いずれかのチョコレートを買った人のうち、ハーシーズを選択した人の比率が27%、リンツを選んだ人が73%でした。 この比率は、「0&14」では69%対31%と逆転し、「0&10」でも64%と36%となりました。

このように、ハーシーズが0セント(無料)となった条件で、その購買比率が大幅に上昇しています。 ただし、この結果には、金銭的なコストがゼロだということだけではなく、財布からお金を出すための労力面でのコストがゼロだということが影響している可能性もあります。 つまり、お金を出すのが面倒だという気持ちが、無料のチョコレートを選択することを後押ししたかもしれないわけです。 あるいは、そのときにたまたま財布をもっていなかった学生が、しかたなく無料のハーシーズを選んだ可能性もあります。 これらのことを勘案して彼らは、次のようなもう一つの実験を実施しました。こちらの実験では、チョコレートを販売する場所がMIT内のカフェテリアのレジ横に変わり、そこに上記の2種類のチョコレートが陳列されました。 先述の実験と同様に「1人1つだけ」という掲示がされ、価格条件としては、1セントと14セント(1&14)、0セントと13セント(0&13)という2つの組み合わせが設定されました。

この実験では、食事の代金を支払うためにレジにやってきた学生が、2つのチョコレートの陳列に接することになります。これらの学生はレジで必ず財布を出すので、有料のチョコレートを選んでも無料のものを選択しても、お金を支払うための労力的なコストに差は生じません。 したがって、この実験では、金銭的なコストという観点だけから0セントの効果を捕捉することができると考えられるのです。 実験の結果、「1&14」の条件では、いずれかのチョコレートを選んだ人のうち、ハーシーズを選択した人が21%、リンツを選んだ人が79%でした。 ところが、「0&13」の条件では、両者の比率が71%対29%と完全に逆転しました。 このように、労力的コストを排除して金銭的コストだけを考慮する状況を設定しても、無料の効果が非常に大きいことが明らかになりました。 1セントと0セントの金銭的な差はごくわずかですが、消費者にとっての両者の魅力の差は非常に大きいということです。 そしてその魅力度の差は、お金を出すのが面倒だということに起因するのではなく、0セントと1セントという金銭の差に由来するということです。

「100人に1人がタダ」というタイプのキャンペーンに接した消費者は、タダということに対して非常に大きな魅力を感じると考えられます。 さらに、当選確率を実際以上に高く感じる傾向もあります。 この2つのことの相乗効果によって、100人に1人がタダというキャンペーンに消費者が高い魅力を感じるのだと考えられます。 効果的なプロモーションを立案するためには、優れたアイディアが必要です。 消費者がどのような施策に魅力を感じるのかということを、消費者心理の側面から検討することから、アイディア創出のための大きなヒントが得られることも少なくないと思います。

*この内容は、守口剛(2011)「"100人に1人がタダ"はなぜ魅力的なのか~行動経済学で考える価格効果~」
『流通情報』(43巻、3号)の一部を加筆・修正してまとめたものです。

タグ:「無料キャンペーン」「キャッシュバック」「ゼロ円効果」